インタビュー

リンパ浮腫の手術 リンパ浮腫の新しい治療法とは

リンパ浮腫の手術 リンパ浮腫の新しい治療法とは
前川 二郎 先生

横浜市立大学 形成外科学 教授

前川 二郎 先生

この記事の最終更新は2015年12月22日です。

リンパ浮腫はこれまで効果的な治療法が確立されていない病気のひとつでした。手術という選択肢があることを知らなかった方も多いのではないでしょうか。

超マイクロサージャリーと呼ばれる微細な手術でリンパ浮腫の治療を可能にした、「神の手」を持つ横浜市立大学形成外科教授 前川二郎(まえがわ・じろう)先生にお話をうかがいました。

リンパ浮腫の治療は大きくふたつに分けられます。ひとつは手術以外の保存的治療(複合的理学療法)、もうひとつは手術による外科的治療です。保存的治療だけでは十分な効果が得られないとき、または蜂窩織炎(ほうかしきえん)が繰り返し起こる場合には手術を検討します。

外科手術を行うタイミングとしては、リンパ浮腫を発症してからの期間が短いほうが手術の効果も高いとされていましたが、手術の方法や技術の進展によって、それぞれのステージに応じた治療が考えられるようになってきました。

もちろん、手術だけで完治するものではありませんので、保存的治療も継続的に行うことで治療効果を高めていきます。

従来行われてきたリンパ浮腫の手術には、リンパ誘導手術・浮腫組織切除術・切除誘導術・脂肪吸引などがありました。そのひとつにトンプソン手術と呼ばれるものがあります。

リンパは浅層と深層に大きく分けられます。筋膜より下を深層といい、深層にあるリンパ管を深リンパ系といいます。トンプソン手術はリンパの流れが悪くなっている浅層の流れを深層に巻き込むために浮腫組織(脂肪)を大きく切り取り、筋膜を切って入れ込むという大がかりな手術です。太ももからふくらはぎにかけて広範囲に切除するため、手術痕が醜いばかりか関節が拘縮(こうしゅく・関節の動きが制限されること)して運動機能に障害をもたらすこともあります。また傷が大きいためリンパ漏(リンパ液が漏れ出す)など合併症のリスクが高いものでした。

このほか、リンパ管移植術・リンパ管移行術・リンパ節移植術などもあります。しかしこれらの手術は難易度の高さ、大きなリスクの割に十分な結果が得られないため、現在ではほとんど行われなくなりました。

このように外科手術での完治が困難なため手術そのものを疑問視する声が根強く、リンパ浮腫の治療においては複合的理学療法こそが王道とされる風潮が長く続いていました。しかし、日本が誇る最先端の超マイクロサージャリーと診断技術の向上によって、より高度な手術が可能になってきたのです。

リンパ管静脈吻合手術とは、リンパ浮腫を起こしている部分でリンパ管と静脈をつなぎ合わせて、リンパ液が静脈に流れるようにするものです。顕微鏡で見ながら微細な手術を行う超マイクロサージャリーと呼ばれる技術によって、従来よりも細かい血管を縫い合わせることが可能となりました。

また、関連記事「リンパ浮腫とは」にあるように、リンパシンチグラフィーやMRL、蛍光リンパ造影など最新の画像診断技術により、手術前にリンパ管の状態やリンパ液の流れを正確に把握できるようになりました。このことが精度の高い手術を可能にした大きな要因です。

手術の前にはリンパ管の状態がよく分かるよう、圧迫療法(弾性ストッキング+多層包帯法)でしっかりと浮腫部分の排液を促します。これだけでもかなりむくみが軽減できるものですが、吻合手術によってさらにもう一段階の改善が見られるようになります。

手術時間は4〜6時間、入院期間は数日から1週間程度です(腕の場合は比較的短期間で済みます)。手術の翌日から食事ができ、退院時には弾性着衣を着けて徒歩で退院できます。退院後の生活に制限はありません。

患者さんにとってもっとも大きなメリットは切開の傷が小さい手術(低浸襲)であることです。現在、リンパ浮腫に対する外科療法のメインがこの手術です。

もちろん、リンパ管と静脈との吻合が完璧であったとしても、リンパがうまく流れなかったり、逆流することもあります。術後の開存率(ふさがってしまうことなく機能する割合)は時間の経過とともに低下し、最終的には30〜40%になります。これは言い換えれば5カ所の吻合を行えば2カ所は残るということであり、リンパの通り道が残ってさえいればマッサージを併用することで十分に効果を上げることができます。また、手術自体が低浸襲でマイナス面がきわめて少ない治療ですので、より効果を高めるために再手術することも可能です。

リンパ浮腫治療の理想的なゴールは、保存的治療さえも必要のない状態に持って行くことですが、人それぞれ効果の表れ方には個人差もあります。手術後も複合的理学療法を続け、画像診断によって改善状態を評価するという段階を踏むことによって、弾性着衣の締め付けを一段階弱いものにすることができる、あるいは弾性着衣そのものが必要なくなるといった効果が得られれば、患者さんのQOL(生活の質)は確実に向上したといえるのです。

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